「一度きりの大泉の話」、読んだ
キツい。
いやもう、ある程度は予想してたけど、遥か上を行くキツさでした。
5年前に竹宮惠子さんの自伝的エッセイ「少年の名はジルベール」が出版されて以降、大泉サロンに集ったレジェンド(嫌なことばだ)たちの思い出を語って欲しいとか、竹宮さんとの対談をとか、ドラマ化したい等々の申し込みが絶えず来るようになり、それらを一切拒否するため一度だけ話すから、あとはそっとしておいて欲しい――というのが今回の出版の理由だそうです。
竹宮本によると、大泉で萩尾さんとふたり同居を始めたはいいものの、次第に彼女の才能の凄さに圧倒され、嫉妬とスランプで体調を崩し同居を解消せざるを得なかったということでした。
その後なんとか気持ちを立て直し、長年あたためていた作品を描くことによって大きな人気を博し、自分を信じて現在に至る――と、まあそんな内容。
対して、萩尾さんの「一度きりの大泉の話」では、同居の解消に異存はなかったものの、その直後竹宮・増山両氏から突き付けられた身も凍るような言葉にショックを受け大きく体調を崩し、ふたりに関わり合いたくないと田舎に引越し、それ以降竹宮作品は一切読まず絶縁するしか心身の均衡を保てなかった、と書かれています。
その後も共通の友人を通して入ってくる、出どころ不明の中傷や根拠のない噂にしばらく悩まされたそうです(詳しい内容はここには書きません)。語り口は丁寧ですが、萩尾さんのふつふつとした怒りが行間からにじみ出てくるようで、読む方も体調が悪くなるほどです。
竹宮さんは萩尾さんをある意味切り捨てたことで、その後は思い通りにマンガ人生を歩めた。
萩尾さんは投げつけられた言葉に傷つき、マンガに邁進することで悪夢を振り払った。
竹宮さんは70歳という年齢を機に、あの時を清算しようとしている。
萩尾さんはあの時を永久凍土に埋め、ただひたすら忘れようとしている。
竹宮さんは萩尾さんが了解すれば対談をする用意があるそうですが、萩尾さんは拒否。
竹宮さんから送られた「少年の名はジルベール」はマネージャーが代読し、要旨を萩尾さんに伝えたあと送り返したそうです。
事ここに至り、女版トキワ荘的発想も、24年組や少年愛の括りも捨て、これからの人生をただ穏やかに過ごしてほしいと、あの頃彼女たちの紡ぐ物語に耽溺したいちファンは願うばかりです。
----追記----
本の最後には、長年萩尾さんのアシスタント兼マネージャーである城章子さんが一文を寄せています。
それによると、本書に名前が出るため許可をとったマンガ家の中に岸裕子さんがいたそう。
彼女がまた、慧眼な発言をしていて、うううと唸ってしまいました。
また、以前ワタクシが書きました竹宮さんについての記事はコチラです。
よろしかったらどうぞ。
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